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お母さんの机

お母さんの事

私が電話台の製作にとりかかったころ、彼女のお母さんの症状は日に日に悪くなる一方でした。

お母さんが痴呆の症状をみせる事は現状ではいたしかたないと思う一方で、もっと別の病気などが原因で、それが治療で改善しないものか、あれこれと悩む日々が続いていました。


そんなある日、お母さんに特徴的な症状が現れてきたのです。


「ガタンッ」と音がして、お母さんが持っていた物を落としました。

はじめは、そんなに気にしていなかったのですが、そのうち頻繁にしかも腕ごとダラッと力が抜ける感じで、持っている物が茶碗であろうが、何であろうが関係なく落としてしまうのです。

発する言葉も日に日に怪しくなり、この日は刻々と症状が悪化し、言葉そのものが出にくくなっていました。

時刻は19時くらいでしたが、心配になり帯広の総合病院に電話をしてみます。

するとその病院の看護師は今すぐ来てください、と言いました。今から仕度をしてその病院へ向かっても広尾町から帯広ですから、21時くらいになるはずで私たちは少し二の足を踏んだのですがこの際仕方ありません。

帯広の病院へ向かう道中、お母さんはとうとう話もできないようになり、明らかにおかしな状態を感じました。


ちょうど21時ころ病院に到着、救急救命受付から待合室に入ると意外にもたくさんの患者さんたちがいて、少し違和感を感じました。

なぜかと言うと、外では次々と救急車が止まり、担架に乗った人が運ばれてくるなか、まるで昼間の診療時間のようにただ単に発熱や腹痛で訪れた親子や夫婦が待合室の席からあふれるようにそこに居たからです。

「たぶん風邪だと思いますよ、お大事に」

看護師が患者にかける声が聞こえてきました。



お母さんは既に診察中。

その長い待ち時間のあいだ、私の彼女は診断結果がどう出るのか分かりませんから、当然不安を隠せない様子です。

明日の自分たちの仕事のことも眼中にないわけではありません。

彼女の弟さん夫婦も駆けつけ、ややしばらくすると診断の結果が告げられました。

担当した医者の説明によると、頭の中に血が溜まり、脳を圧迫しているためその部分に障害が出ているとの事。

病名は「硬膜化血腫」でした、明日手術です。

彼女のお母さんは長い間、たいへんなご苦労をされてやっとこの頃その苦労から開放されたはずなのに…。



かねてより高血圧で時折病院から薬をもらって服用していましたが、一昨年前の12月に腎臓の数値が異常ですぐにでも透析治療が必要だと告げられ、腕にシャントを作る手術をして昨年5月から週2回の透析治療が始まりました。

当時はお父さんと暮らしていたのですが、この病気の事はもとより、訳あって今までの生活を続ける事は心身ともに限界がきていました。

そこで彼女は、半ばお父さんから奪うように広尾に連れて来たのでした。

お母さんは「私にこんな幸せな時間が訪れるなんて思ってもみなかった」と、とても穏やかに話していました。

親戚も友達も知り合いもいないこの町で、彼女が会社に行っている間一人で寂しいに違いなく、それでも幸せだと言うお母さんの人生を思うと、何か切ない気持ちになったものでした。


それが、こんな事になってしまって…。

私は同情するほかありませんでした。

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