お母さんの事 15
救命センターの待合室は異様な空気で満ちていました。
亡くなられた若い女性の親族たちが悲痛な風景を作り出していたのは間違いありません・・・
待合室には私たちの他にも数名の患者とその関係者らがいました。
その誰もがおおよその顛末、家族関係を想像するに充分な話し声も聞こえていました。
別れは痛ましいですが、悲しいものとそうではないものとが私にはあります。
しかしこの時私はあかの他人にもかかわらず、何も知らず留守番をしている子供たちを想像してしまい胸が苦しくなってしまいました・・・
一瞬、私達がなぜここにいるのか忘れてしまうようなそんな空気の中、看護士が私たちを呼びます。
「他の家族の方もいらっしゃるので別室に入って下さい」
若い女性の看護士がそう言い、私たちは小さな部屋に案内されました。
お母さんの容体を説明する前に、担当した医者が私達とお母さんとの間柄について教えて下さいと言いました。
その時、一人ひとり長男です、とかその妻ですとか続柄を言うのですが、「あなたは?」と聞かれた際、私は少し気まずい思いをしました。
私達の内心では家族も同然なのですがそれは週末だけのこと・・・長女の交際相手、つまり他人だからです。
担当医が初めに続柄を訊ねた意図、詳しい説明は家族のみにしたい意が感じられました。
私が言葉を詰まらせていると隣にいた彼女がすかさず、「私の彼氏です、母の変化に気づき車を運転し大樹町まで運んでくれました」と説明しました。
こう云うのをフォローと言うのだなと感心していると「なるほど」と担当医も納得してくれたのか、レントゲン写真を広げながら説明がはじまりました。
しかしそれは、私達がついさっき体験した修羅場のような車中に覚悟した事とは程遠いものでした。
「検査をした結果から言いますとお母さんは、痙攣です」
担当医がそう言いました。